大学進学やキャリア形成において、自分の進路に迷い、文系から理系への学習分野の変更、いわゆる「理転」を考える方も多いでしょう。しかし、一般的に理転は非常に難しいと考えられています。
筆者は、Re受験して難関国立大学の文学部を卒業したうえ、社会人として働きながら独学でITについて学び、ゼロから情報システム部門を立ち上げた経験があります。理系学部で学んだわけではありませんが、仕事を通じて文系分野から理系分野への転身に成功しました。
この記事では、理転を成功させるための考え方や具体的な戦略、方法を詳しく解説します。理転を悩んでいる人はもちろん、理系分野に興味を持っているすべての文系出身の方は必見の内容なので、ぜひご覧ください。
理転とは?
そもそも「理転」とは、何を意味するのでしょうか?
まずは理転をする時期ごとに分類して整理するとともに、メリットについても見ていきましょう。
理転の4つのタイミング
理転の時期は、大きく4つのパターンに分かれます。
- 高校在籍中の理転 – 高校で文系コースを選択していた学生が、理系コースに移行する。
- 受験で理系学部を選ぶ理転 – 文系コースを選択していた学生が、大学受験で理系学部を志望する。
- 大学進学後の理転 – 大学入学後に文系学部から理系学部へ転部する。
- 社会人の理転 – 文系学部を卒業後、社会人として大学の理系の学部に通い直す。
理転する際の根本にあるのは、「理系の分野に興味がある」「理系の分野が得意だ」という思いや考えでしょう。
理転を成功させることができれば、進学先や就職先、さらには会社内での役割などで、よりあなたの「好きなこと」「やりたいこと」で生きていけるための選択肢が開かれるのです。
理転のメリット
理転のさまざまなメリットを確認してみましょう。
- 専門性の高い内容を学ぶため、その専門に直結する職業に就きやすい
- 研究職・開発職、製造業、システムエンジニアなど、さまざまな業種・職種に選択肢がある
- 実験や研究を通じて、その分野ごとの具体的な技術や知識を身につけることができる
- 研究職や技術職など専門的な知識が求められる職に就くと、若いうちから高い年収を得られる可能性がある
私自身、社会人になってからの理転で年収を上げることができています。これはあとでも述べますが、理転の決断は早ければ早いほどよいものです。
もしここで「理転」の魅力を再確認できたなら、この記事でも紹介していますが「理転」の仕方など理転に関する情報をまずは積極的に調べてみましょう。
理転のプロセス
理転を実現するためには、それぞれのケースに応じた具体的な理転方法を知っておく必要があります。
理転に向けた学習も進める必要があるので、そのポイントも紹介します。
文系から理系へ理転するための方法
理転するための方法は、状況によって相談先や申請先が異なります。
自分の状況に合わせて、適切な対応をしましょう。
高校在籍中の場合
高校の文系コースから理系コースに変更したい場合、まずは担任や進路指導の先生に相談しましょう。
理系での勉強に必要な基礎科目(数学や理科教科など)のレベルを確認し、必要に応じて補習を受けたり、自主学習を計画的に進めたりすることが大切となってきます。
受験時の理転
理転が認められていない高校であったり、受験直前で理転を考えた場合は、高校在籍中の理転が難しいでしょう。
その場合は、高校では文系コースに籍を置きながら、受験のタイミングで大学の理系学部を志望する方法が考えられます。
まず受験科目を確認し、理系特有の科目(例えば数Ⅲ、物理、化学、生物など)の学習計画を立てましょう。
予備校や塾を利用して特訓を受けることも効果的です。
大学進学後の理転
大学在学中に文系から理系学部への転部を希望する場合、学生課や学部事務所に相談し、転部のための必要な手続きを確認、進めましょう。
転部するなら履修が必須となっている科目もあるかもしれませんので、理転を思い立ったらできる限り早く確認をする必要があるでしょう。
この場合もやはり、理系特有の科目の特訓は不可欠になります。
なお大学によっては、入学した後に専攻を決められる仕組みのところもあります(東京大学など)。
社会人の理転
文系出身の社会人でも、再び大学の理系学部入学を目指してRe受験することができます。
社会人はどうしても仕事の関係で時間の確保が難しいため、特に効率を重視した対策と準備が必要になるでしょう。
すでに働いている社会人を対象にした「社会人入試」の制度がある大学もあります。
入学したい大学の募集要項をよく読んだり、大学に直接問い合わせたりして、申請手続きなどを確認し進めましょう。
社会人Re受験については以下のページでも紹介されていますので、興味があれば参考にしてみてください。
社会人Re受験 | Re受験バイブル “浪人”あらため“Re受験”へ。受験の再挑戦を応援。 (rejuken.jp)
理転に必要な学習のポイント
理転のために理系分野の学習を進めるにあたって、注意すべきポイントがあります。それは、文系科目と理系科目の性質の違いです。
文系科目は「広さ」
文系科目では主に「知識の幅広さ」が成績につながると考えています。
英語であれば、英単語や慣用表現、文法。歴史であれば、偉人、出来事、作品名など。
どれだけ多く、体系的に覚えているかが問われますから、仮に今解けない問題があってもそれは「まだ知らないだけ」であり、どんなかたちであれ覚えれば点数は上がりやすいです。
理系科目は「深さ」
一方理系科目では、「理解の深さ」が求められると考えています。
たとえば数学では、足し算・引き算がわかるから掛け算・割り算がわかり、そこに文字を使った計算(代数)の考え方も加わることで、y=axのような関数が理解できるようになります。
同じように物理の力学分野では、等加速度直線運動の公式を理解できると、自由落下運動・鉛直下方/上方投射・水平投射・斜方投射などの公式はすべて計算で求められます。
前の学習の知識が次の学習で必要になる“積み上げ”の要素が強いのです。
理転の難しさの理由
上述したように、理系科目の勉強は基礎から順番に進めることが必要です。学んだものを応用して問題を解いていく思考力を身に付けるには、必ず一定の時間がかかります。冒頭に「理転は決断が早いほどよい!」とお伝えしたのもこれが大きな理由です。受験など締め切りのようなものがある場合は、そこに間に合うように学習を進める必要があります。
さらに、理系コースの人たちは先に学習を進めているため、理転する場合そのハンデを背負ったまま彼らと競ったり一緒に研究を進めたりしなければなりません。そういった背景から少なからず精神的ストレスを抱えてしまう人もいるでしょう。
実際、理転の達成率は文転より低い傾向にあります。2005年の研究では、理転・文転いずれかのコース変更を希望する高校生のうち、理転を達成できたのは23%と、文転の35%よりも低くなっています。
参考:高等学校教育課程の実態について 一文理分け教育の 再考一
理転成功のための戦略
一般的に難しいといわれる理転ですが、戦略を立てて取り組めば不可能なことではありません。
理転を成功させるためのいくつかのコツを紹介します。
時間管理と学習のコツ
まず重要なのが、時間管理です。
理転はもともと理系コースを選択していた人に追いつく必要がありますから、より集中して効率的に時間を使っていく必要があります。
ここでは、働きながらの限られた時間の中で理系分野の学習を進めることができた私が活用して特に有効だった戦略を2つご紹介します。
時間記録アプリの活用
勉強に集中する方法として、「ポモドーロ・テクニック」というものがあります。
25分間の勉強と5分間の休憩をセットにして繰り返すのですが、これが人間の脳にはちょうどよいのだそうです。
参考:ポモドーロテクニックとは?仕事の生産性を上げる時間管理術
そこで、ポモドーロ・テクニックに対応したタイマー兼記録アプリを活用しましょう。記録もするのは、自分の努力の跡が見えるようになり、自信につながるからです。
参考:Focus To-Do: ポモドーロ技術 & タスク管理
私は大学のRe受験も経験しているのですが、当時もポモドーロ・テクニックを使い、直前期に気づいたら1日15時間勉強していて、「やればできるやん!」と自信になったことを今でも覚えています。
スキマ時間の使い方
よく「スキマ時間を活用しよう!」といわれますよね。
電車移動やちょっとした待ち時間も勉強に使えるのは確かです。そこで、そのスキマ時間で「何をすべきか?」しっかりと考え、効率的にスキマ時間を活用する必要があります。
理転を目指す人たちには時間がありません。スキマ時間を日常に見出したうえで、最も効率のよい使い方をすべきです。
ポイントは、スキマ時間はあくまで「ながら作業」しかできないということです。机を前にして椅子に座り、ノートに書き込みながらするような勉強は難しいです。
そこで、私が実践していた中でおすすめするのは、「単語帳2秒暗記法」による単純作業を繰り返すことです。市販のものでも、自分で作ったものでもよいので、覚えるべき公式やキーワードを見て、「2秒」でわからなかったら次、という作業を繰り返すのです。
分からなかったものには付箋をつけ、分かるようになったら剥がしましょう。付箋が目に見えて減っていくことで、学習の進捗が見えるため、これもやる気が出ます。
なおその他の隙間時間活用術は、こちらのページにまとめがありますので、ぜひご覧ください。
モチベーションの維持方法
勉強を続けるためには、モチベーションの維持が不可欠です。
モチベーションややる気のコントロールは難しく、多少工夫することが必要となってくるでしょう。
「時間管理と学習のコツ」で紹介した2つの戦略にもモチベーションが高まる仕掛けを上手く組み込んでいます。
ここではさらに、モチベーションを維持するための2つの方法を解説します。
目標・目的を明確にする
理転というのは多くの人にとって困難な道のりです。 勉強の大変さに、しんどくなってしまうときもあるかもしれません。 しかしそのとき、理転の先にある具体的で明確な「なりたい姿」がイメージできていると、単に「理転が成功したらいいな」と思っているだけよりも格段に心の折れにくさが上がります。
また、理転したいと思った目的や動機も見失いがちなので、理転の目的を明確にしておくこともモチベーションを維持するうえで大切です。
たとえば理系科目の方が興味があるとか、大学で理系科目を学びたいということがきっかけなら、一度その科目や大学について調べてみましょう。また、大学のオープンキャンパスに行ったり、その学問分野で有名な教授のインタビューを探したりしてみることで、動機をより強くしモチベーションを高めることもできるかもしれません。
そうした調べ事をしながら、自分が目標を叶えた際の1日のスケジュールをできるだけ具体的に立ててみると、よりモチベーションを高めることができます。 もし曖昧な部分やわからないことがあったら追加で調べ、明確なスケジュールが完成するまで続けます。
でき上がったスケジュールは、ときどき眺めてみてください。 あなたの描いた理想の未来が、力をくれるはずです。
モチベーションについては、こちらのまとめも参考になります。
参考:モチベーションの技術
ゴールと現在地を明確にする
しっかりと未来を描けたら、これから始まる勉強のための準備をします。
ここでのポイントは、勉強を始める前に必ず、その勉強の「ゴール」と「現在地」を最大限具体的にすることです。ざっくりとした例でいえば、「次回の模試までに数学の偏差値を55にする必要がある(ゴール)。直近の模試では偏差値48だった(現在地)」という具合です。
たとえば、今あなたが見知らぬ土地にいるとして、一番近くの駅まで行くには何が必要でしょうか?
まず駅の場所、つまりゴールを知る必要がありますね。これは理転で言うと、受験や転部なら合格基準、業務ならスキルレベルを知ることです。これからの勉強を通してどこまで行けばいいのかを調べましょう。
次に今自分がいるところ、つまり現在地を調べます。理転でいうと、模試の今の点数や合否判定、また自分が勉強に使える時間などもあてはまります。自分の今の到達度を知らなければ、がむしゃらな努力になって結局遠回りしてしまうでしょう。
そうしてゴールと現在地が見えたら、あとは行き方を調べます。理転で言うなら、参考書などで独学するのか、予備校や有料スクールに通うのかという勉強方法を考えるのがこれにあたります。今の自分がゴールに辿り着くために一番いい方法は何か?ということは、あなた自身が一番よくわかるはずです。
このように、最初にゴールと現在地を明確にして最適と考えた方法を選んでいると、その後の勉強も迷いなく進めることができ、モチベーションも維持しやすくなります。
仲間を見つけて切磋琢磨する
これは私の話なのですが、Re受験当時、予備校の仲間と今考えればすさまじい勉強をしていました。
午後10時に予備校が閉まってそれぞれ帰宅したあと、午後11時から12時までの1時間でセンター試験(当時の呼称)の数学の予想問題を解き、互いに点数を共有してから寝る、という生活を約1ヶ月間続けたのです。
1日15時間勉強の締めくくりの1時間でした。こんなことは、仲間と一緒でなければ絶対にできなかったでしょう。
仲間とは、単に仲がよい友達とは別のものです。
同じ目標を目指して協力しながらも、よい意味で「コイツにだけは負けたくない!」と思える相手こそが仲間といえると思っています。そうした関係だからこそ、切磋琢磨して高め合うことができるのです。
今の時代は予備校などに通わなくても、SNSなどで同じような境遇の仲間をより見つけやすくなっています。ぜひ目標を共有する仲間とつながり、工夫して切磋琢磨しながら勉強に弾みをつけてください。
選んだ道を正解にする
理転はご紹介したとおり、困難な道のりです。 限られた時間の中で、最初から理系である人たちから勉強が遅れているというハンデをはねのけて進んでいかなければなりません。
理転について知れば知るほど不安になり、「理転はやめた方がいいのか?」「第一志望のランクを落とした方がいいのか?」と、今からしようとしている選択が「正解」かどうか気になってくることでしょう。
しかし断言します。人生に、決まった「正解」や「成功」はありません。
あるのはあなたの「行動」と、その「結果」だけです。
エジソンの有名な言葉に、
I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
(私は失敗したことがない。ただ10,000回の上手く行かない方法を見つけただけだ。)
というものがあります。
行動の結果をどう捉えるか次第で、「成功」かどうかは変わるのです。
だから、もし決心がつかないようなら、理転という自分が選ぶ道をこれから「正解」「成功」にするんだ!と考えてみてください。
きっとあなたの「やりたい」を叶える道が見つかります。
まとめ
今回は文系から理系への進路変更、いわゆる「理転」について解説してきました。
結論として、理転は確かに困難な道のりかもしれませんが、明確な目標を持ちながら効率的に勉強ができる戦略をとることで、十分達成可能であるといえます。
理転には進学やキャリアの選択肢が広がる大きなメリットがあるわけですので、「理転は難しそうだから諦めよう」と浅はかに考えるのはやめましょう。
理転を試みるのでしたら、この記事で紹介した学習を効率よく進める方法だけでなく、その他の効率的な勉強方法も調べ、駆使し、理想のゴールの実現を目指しましょう。
何より大切なのは「選んだ道を正解にする」という考え方です。何が成功なのかは自分次第。自分の選択を正解にするために頑張りましょう。
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