大学受験を意識し始めると、「アドミッション・ポリシー」という言葉を耳にする機会が増えてくると思います。
そんななかで、
「アドミッション・ポリシーを読んだけどよくわからない」
「推薦選抜に必要と聞くけど本当?」
このような疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
アドミッション・ポリシーは入学者を選ぶにあたっての大学の基本的な考え方を示したものです。アドミッション・ポリシーを把握することで、志望大学を選ぶ際や受験の際にとても役に立ちます。
この記事ではアドミッション・ポリシーについて詳しく解説したうえで、活用方法や注意点について解説していきます。志望大学選びや受験方法について悩んでいる方必見の内容です。ぜひ最後までご覧ください。
アドミッション・ポリシーとは?基本的な意味と役割
はじめに、アドミッション・ポリシーとは具体的に何を意味するのか、解説していきます。
アドミッション・ポリシーとは、大学が求める学生像を示した方針のことを指します。
大学がどのような人材を育成しようとしているのかを示した教育理念や、大学の特色を主に示しており、それに基づいて入学者選抜の実施方法や評価方法についてまとめています。
また文部科学省はアドミッション・ポリシーの他にも「カリキュラム・ポリシー」と「ディプロマ・ポリシー」という2つのポリシーを定めることも義務化しています。この3つのポリシーはどのような関係性なのでしょうか。
文部科学省の説明を引用させていただきます。
ディプロマ・ポリシーとは各大学がその教育理念を踏まえ、どのような力を身に付ければ学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標となるものです。
そしてカリキュラム・ポリシーとはディプロマ・ポリシーの達成のために、どのような教育課程を編成し、どのような教育内容・方法を実施するのかを定める基本的な方針を意味します。
そして、アドミッション・ポリシーは
各大学が、当該大学・学部等の教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、入学者を受け入れるための基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果(学力の3要素※)を示すものです。
※
(1)知識・技能
(2)思考力・判断力、表現力等の能力
(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
引用:資料1-2 三つのポリシーの策定と運用に係るガイドライン(骨子の素案)
という解説がされています。
つまり、ディプロマ・ポリシーは「学生の卒業時の目指すべき像」に関する最終の方針、そしてカリキュラム・ポリシーは「ディプロマ・ポリシーを達成するための中身」の方針、そしてアドミッション・ポリシーは「カリキュラム・ポリシーに基づく内容を遂行し、ディプロマ・ポリシーに基づく目標を達成できそうな学生を迎え入れる」入口の方針といえます。
3つのポリシーはそれぞれ関連しており、大学はこれらの3つのポリシーを実現させるために一貫した教育体制を整える必要性が生まれたということです。
文部科学省が各大学にポリシーを定めることを義務付けたのは平成29年4月からです。それ以前からも3つのポリシーを設定している大学は数多くありました。しかし、文部科学省は3つのポリシーの関連性が弱いという指摘をし、関連性を強めたポリシーを再設定することを求めたという背景があります。
具体的なポリシーを設定することによって、大学がどのような人材を求めているのかを受験生に示すことができ、より大学が目指す人材の確保をしやすくなります。また大学からどのような人材が輩出することを目指しているのか、全ての教職員が共通理解し、連携して取り組むことができるようになります。
ここまでアドミッション・ポリシーおよび3つのポリシーの関連性について解説してきました。よりイメージしやすいように、早稲田大学のアドミッション・ポリシーを実際に見てみましょう。
早稲田大学のアドミッション・ポリシーでは、入学前に以下のような能力を身につけておくことを求められています。
- 本学の教養教育及び専門教育の基礎となる水準の知識・技能
- 本学での学習に必要となる論理的思考力・判断力・表現力
- これらを身につけるための主体性・協働性
- 進取の精神に富んだ旺盛な知的好奇心とそれから導かれる独創性
- 自主独立の精神と他者への共感を育む豊かな感性
- 社会に貢献する強い意志を支える高い勉学意欲
そして入学前に学習しておくこととして、文理を超えて幅広い教科・科目などを学習し、世界のさまざまな地域で社会に貢献できる能力・素養の基礎を培っていることを期待する、ということが書かれています。
そしてディプロマ・ポリシーには、
「たくましい知性としなやかな感性を有し、自らの専門性に基づく知見を活用して、国籍、エスニシティ、言語、信条などに関わらず、人としての尊厳と多様な価値観や生き方を尊重し、さまざまな地域社会な環境・文化を包摂したより良き社会・世界の実現に貢献できる人材」
を育成することを目標としていることが記載されています。
そしてそれを実現するためのカリキュラム・ポリシーには、「全ての学生に根拠に基づく思考力を身につけさせるため、基礎教育を充実させる。多彩な科目から、学生が学びを主体的に構築するために学問分野・レベル・授業形態などを体系的に示す。」とあります。
つまり、早稲田大学は多様な価値観を尊重し、世界で社会の発展に貢献できる人材を育成するために(ディプロマ・ポリシー)、文理を問わず多様な知識を身につけることのできるカリキュラムを構築している(カリキュラム・ポリシー)。このような人材が輩出するために、社会に貢献できる力を身につけるための知的好奇心、共感性、主体性などを身につけている人材を求めている(アドミッション・ポリシー)、ということがわかります。
アドミッション・ポリシー及びディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーは各大学の公式サイト、または学校案内パンフレットなどで確認することができると思います。
ぜひ確認してみてください。
また多くの大学が各学部ごとにも3つのポリシーを設定しています。
先ほど例に出した早稲田大学も学部ごとにポリシーを設定していますので、例として文学部の3つのポリシーを確認してみましょう。
早稲田大学文学部のアドミッション・ポリシーは、『「人間・世界を深く探り、言語・文学・表現の本質を解明し、人間・社会を歴史的に究明する」「豊かな学問的蓄積を受け止めて、新しい時代のなかで発展させるとともに、伝統的な学問体系をより洗練して確固たる学問として確立する」という学部の理念・目標を理解し、学位取得に積極的に取り組む意欲がある。』というものです。
ディプロマ・ポリシーは、「伝統的な学問分野を深く学ぶことによって、時代の波に翻弄されることなく、確かな視点から人間の本質を理解できる人材を育成する。伝統の継承と発展に貢献するために、名声におごらず、権力におもねらず、互いに切磋琢磨して人間性を高め、久遠の理想を目指して努力する人材を育成する。」というもので、科目ごとの具体的な到達目標も記載されています。
例えば外国語に関しては、「「必修英語」・「基礎外国語」などの履修を通じて、専門課程で充分に活用でき、また様々な場面における幅広いトピックに対応できる外国語能力を身につける。」という記載があります。
そしてカリキュラム・ポリシーは、1年次は進級後の専門的な学習に向けた基礎能力、基礎語学力の育成をし、2、3年次には18のコースから専門を選び学習。4年次にはこれまで学んだことを卒業論文にして提出することを目標に学習を進めるというカリキュラムが設定されています。
学部のポリシーは大学全体のポリシーに比べて具体的に記載されています。特にカリキュラム・ポリシーを読むことで学年ごとにどんな学習をするのかイメージしやすくなることもありますので、ぜひ読んでみてください。
志望大学のアドミッションポリシーを理解する重要性
ここまで、アドミッション・ポリシーとは何か、大まかに解説してきました。
それではなぜ、アドミッション・ポリシーを理解することが大学受験において重要なのでしょうか。
それは、ポリシーの違いが大学の教育方針や求める人材に大きく影響しているからです。アドミッション・ポリシーを確認することで、大学の教育方針を理解することができ、大学を知るうえで役に立ちます。
そしてアドミッション・ポリシーを読めば大学がどのような人材を入学させたいのかがわかります。どのような能力が求められるのかだけではなく、どのような入試を行うのかについても書かれていることが多いので、受験の対策にもなります。
例えば東京大学のアドミッション・ポリシーには、文系受験者にも理系の科目を課し、どの科類の受験者にも外国語の基礎能力を要求すると記載があります。
志望大学の目標とする将来像と、自分のなりたい将来像のミスマッチを防げるかもしれませんし、事前にポリシーを確認しておくことは意味があるでしょう。
アドミッション・ポリシーを活用する方法
では、アドミッション・ポリシーを活用する具体的な方法を1つずつ見ていきましょう。
志望大学選びでの活用
アドミッション・ポリシーを事前に確認しておくことは、志望大学選びの際にとても役に立ちます。
例えば、日本の伝統的な文化を守る仕事に就きたいと思っている受験生が、世界に貢献する人材を育成するために国外の文化に関する知識や語学を身につけることをポリシーに掲げている大学に入学してしまった場合、本来その受験生が大学で学びたかったことが学びづらい可能性が予想できます。
アドミッション・ポリシーを事前に読んでおくことで、このようなミスマッチを防ぎ納得のいく志望大学選びをするのに役立つでしょう。
志望大学選びの際には、アドミッション・ポリシーだけでなく、先に紹介したディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシー、そして志望している学部・学科ごとにも3つのポリシーがある場合は、それらも確認することをおすすめします。特に学部・学科のポリシーには、具体的にどのような分野をどれくらい勉強できるのかが書かれている場合が多いので、よりその学部・学科に入学した際のイメージがつきやすいです。
志望大学選びについてもっと知りたい方は、以下のページでも詳しく紹介されていますので、ぜひ読んでみてください。
Re受験生の志望校の決め方 | Re受験バイブル “浪人”あらため“Re受験”へ。受験の再挑戦を応援。
総合型選抜・学校推薦型選抜での活用
特に活用価値が高いのが、アドミッション・ポリシーを確認しておくことは、推薦入試や総合型選抜(旧AO入試)の対策になることです。
そもそも推薦入試や総合型選抜は大学側がアドミッション・ポリシーに合った受験生を選ぶための試験です。こうした入試形態を利用する場合は、事前に確認して対策しておくことは必須といってよいでしょう。
アドミッション・ポリシーを総合型選抜で活用するためには、アドミッション・ポリシーを自分なりの言葉で説明できるくらい理解している必要があります。出願書類を書く際にも面接の際にも、アドミッション・ポリシーを理解できていることをアピールする必要があるのです。
まず大学側が入学者に求める像をチェックし、それに関連付けることができる評価されるであろう活動や経験(留学経験やボランティア活動等)などを確認しましょう。
例えば、明治大学国際日本学部のアドミッション・ポリシーのページ内の「入学志願者に求める高校等での学習での取り組み」には、英語の配点が高いこと、英語の読む、書く、聴く、話すの4つの基礎的な能力が備わっている必要があるということが記載されていますので、留学経験(特に英語圏の国への留学)は評価されやすいと推測できます。また求める学生像としてこの学部での学習を通して「英語・日本語で論理的に考える思考力を身につけるとともに、どのような場面でも、的確かつ効果的に英語・日本語でコミュニケーションする力を身につけたい者 」を求めているという項目もあります。この項目を見ても、英語に関する経験をうまく紐づけて話すことができれば、評価されやすいだろうと考えることができます。
参考:国際日本学部入学者の受入方針(アドミッション・ポリシー) | 明治大学
そして自分の目標や今までの経験、強みなどと関連づけられる箇所をリストアップし、出願書類に反映させていきましょう。出願書類には、これまでの経験(部活動、ボランティア活動、留学などさまざま)を書くことが多いと思いますので、出願書類に記載するための経験を積めるためにもアドミッション・ポリシーはなるべく早いうちに確認しておくほうが良いでしょう。高校3年生の受験シーズン真っ只中の時に慌てて確認して、それからポリシーに沿った経験を積むというのは難しい話です。
アドミッション・ポリシーの理解度は、面接試験の際にも重要視されます。「あなたは本大学のアドミッション・ポリシーを読みましたか?」「本学のアドミッション・ポリシーをどのように入学後反映させますか?」などアドミッション・ポリシーに関する直接的な質問がされるケースが多いからです。
またアドミッション・ポリシーに沿う学生を見つける試験ですので、ポリシーとどれくらい一致しているのかも当然問われます。アドミッション・ポリシーに沿った受け答えができるように対策しましょう。
参考:アドミッションポリシーとは?各大学のポリシーの調べ方と活用方法まで解説
総合型選抜・学校推薦型選抜についてもっと知りたい方(特にRe受験生)は、以下の記事も参考にしてみてください。
Re受験生でも推薦入試は受けられる?推薦入試の特徴や利用できる大学を調べてみた
Re受験生でも総合型選抜は受けられる?AO入試との違いや特徴を調べてみた
モチベーションアップに活用
アドミッション・ポリシーには大学が求める人材像が書かれています。それを確認することで、大学に合格するために自分が改善すべきことなどを把握できたりするかもしれませんが、「この大学に入れたらこうした特長を兼ね備えた他の人たちと一緒に大学生活を過ごせる!」とモチベーションアップにつながることもあるでしょう。
志望大学のポリシーと自分に共通する部分があれば自信にもなるでしょう。
またアドミッション・ポリシーだけでなくディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーも確認することで、自分がその大学に通った時にどんな環境でどんな学習ができるのかを想像することもできます。在学中や卒業後の将来をイメージすることができるということもモチベーションアップになるでしょう。
受験勉強は長期間に及ぶので、モチベーションを高く維持できるということはとても重要です。
参考:アドミッションポリシーとは?面接に関係ある?医学部受験生が確認するべき3つの理由
アドミッションポリシーを活用する際の注意点
ここまでアドミッション・ポリシーを理解することの重要性、そして活用方法について解説してきました。
ただし、アドミッション・ポリシーを活用する場合いくつか注意点があります。1つずつ見ていきましょう。
自分の価値観や目標を優先する
アドミッション・ポリシーを重要視するあまり、無理に志望大学のポリシーに自分の価値観を合わせすぎないようにしましょう。
仮に無理やりポリシーに合わせて試験に合格できたとしても、そこで学べることは本来自分のやりたいこととはずれてしまう可能性があるからです。
あくまで自分の価値観、目標を優先して、それに合うポリシーの大学を選択して受験する方が、のちのち後悔もしないでしょう。
アドミッション・ポリシーに縛られすぎない
志望大学を決める際に注意して欲しいのが、アドミッション・ポリシーに縛られすぎないということです。
大学は、「アドミッション・ポリシーに共感できるか」という点だけで選べるわけではありません。そのほかにも、自分が学びたい内容を学べるか、研究設備は整っているか、就活の有利性があるか、留学制度など各制度の充実度はどうか、立地はどうか、などさまざまな要素を検討する必要があります。
「アドミッション・ポリシーに共感できないからこの大学はやめよう」と短絡的に考えるのは避けて、さまざまな観点から志望大学を選びましょう。
まとめ
アドミッション・ポリシーについて、その概要や活用方法などについて解説してきました。
大学受験前にアドミッション・ポリシー及びディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーを読んでおくことは、総合型選抜対策には必須ですし、志望大学選びなどにおいても役に立つかもしれません。
この3つのポリシーは自分の大学生活やその先の将来像を想像できる大学の計画書のような面もあるので、読めばきっと志望大学に行きたい気持ちが高まりモチベーションアップにもつながるでしょう。
ぜひ気になる大学のアドミッション・ポリシーを確認してみてください。

