
「偏差値」という言葉は、受験勉強や高校で勉強をしていれば日常会話でもときどき耳にするくらい馴染みのある言葉ですね。受験では、受験する学校の難易度や、自分の成績の立ち位置を数値で示してくれる便利な指標です。
偏差値は高い方が良いということは皆さんご存じかと思いますが、「偏差値50」が何を意味するか、偏差値に上限や下限はあるのかなど、今回はさらに詳しく解説していきます。偏差値の仕組みを正しく理解することで、志望校の難易度や自分の成績の評価がより明確になります。
自分と志望校の距離を正確に把握できることは、受験においてとても重要なことです。受験生、必読です。
偏差値とは?なぜ偏差値を使うの?

「偏差値」とは、テストや模試などの成績が受験者全体の中でどれくらいに位置しているかを表す指標です。
そもそも偏差値は何のために使われているのでしょうか。
ここでは、偏差値の特徴や、偏差値を使う目的について解説します。
相対的な指標と絶対的な指標
そもそも偏差値は何のために使われているのでしょうか。それは、成績を相対的に表すためです。
成績の指標は偏差値の他にもテストの点数や学期ごとの評定など数種類ありますが、「相対的な指標」と「絶対的な指標」に大きく分けられます。
相対的な指標とは、個々の成績を集団内の他者と比較したかたちで表したものです。定期テストのクラス内順位などが相対的な指標です。学期ごとの評定も、例えば1〜5の5段階評価の場合「成績上位10%が5」などと各評定の人数が決まっていると相対評価となります。他にも学業以外の例でいうと、例えばジュースの果汁が含まれる割合(10%など)なども相対的な指標となります。
絶対的な指標とは、他者とは関係なく個々の成績を表す指標です。一般的に定期テストの点数は絶対的な指標です。また学期ごとの評定も、「学期中のテストの点数が平均80点以上の場合は5」など、他の生徒の点数によって評定が左右されず、学期によって「評定5」の人数が異なるような場合は絶対評価となります。先のジュースの例でいうと、ジュース500mlに対して含まれる果汁量(50mlなど)といった実際の量や数値なども絶対的な指標となります。
偏差値は、この2種類のうち「相対的な指標」のひとつです。
偏差値を使う目的
偏差値は、値の大小に左右されにくい性質を持っています。
例えば、英語と数学のテストがどちらも70点だったとします。しかし、それぞれの平均点が、英語は70点、数学は60点だった場合、英語はちょうど平均点ですが数学は平均より成績が良かったことになります。そこで、各教科のテスト結果を偏差値で表すと、英語より数学のほうが偏差値が高くなり、数学の方が比較的得意ということが分かります。
このように、得点だけではテスト結果の良し悪しが分かりづらいことがあります。そんなときに偏差値を使うと、テスト結果の良し悪しも判断できますし、どの教科が比較的得意なのかまで分かったりします。
また、偏差値は「データ(得点)のばらつき」が計算過程に含まれており、基準となる平均値からデータ(得点)がどれくらい離れているかを確認することができ、自分が周りと比較してどのレベルにいるのかをより正確に見て取ることができます。
「データ(得点)のばらつき」がどのように偏差値に反映されているか、偏差値の計算方法をこの記事にて後ほど紹介しています。
偏差値を使う場面
偏差値というと「学力を示す指標」としてのイメージが強いですが、他にも、製造業の品質管理の分野などで使われています。
製品の基準となる品質を「偏差値50」としたとき、「偏差値60の製品」より「偏差値45の製品」のほうが基準に近い品質を保っていることになります。
例えば、製品の「大きさ」という品質を管理したい場合、製品の実寸よりも、それを偏差値で表したほうが基準の大きさからどれくらい離れているか直感的にわかりやすくなり、品質的に合格なのか不合格なのかの判断をしやすくなります。
また、アンケートの結果を分析する際、偏差値の考え方が有効な場合があります。特に、アンケート結果に極端に高い点数や低い点数が含まれている場合、単純な点数だけでは結果の実態を正確に把握できないことがあります。
例えば、アンケートで60点を取った人がいたとして、その点数が感覚的に低く感じられる場合でも、偏差値が65であれば(平均点が30点程度の場合)、実際には他の人よりも高い点数であることがわかります。平均点が一意に定まるのに対して、偏差値は個々の結果に基づいて計算されるため、個別の評価がより適切に行えます。
このように、単に平均値を使うだけでは見えてこない情報を、偏差値を用いることで読み取ることができるのです。
偏差値の仕組み

ここからはさらに踏み込んで、偏差値の仕組みについて解説していきます。
偏差値とは、データの平均値を50、標準偏差を10に変換した評価指標のことです。
これだけではわかりづらいので、「平均値」と「標準偏差」から説明します。
平均値とは?
平均値とは、データの値をすべて合計し、データ数で割った値のことです。
例えば、クラス40人のテストの点数の平均値を算出したい場合は、40個のテストの点数を合計して40で割ります。これが平均値の考え方です。
偏差値では、この平均値を「偏差値50」としています。つまり、偏差値が50より高ければ成績は平均以上であることを示します。
具体的な数字で考えてみましょう。
生徒 | 得点 |
---|---|
Aさん | 75 |
Bさん | 62 |
Cさん | 69 |
Dさん | 81 |
Eさん | 58 |
表の5人の得点の平均値を計算します。
平均値は、5個のテストの点数を合計して5で割ることで算出できるので、以下の通りです。
75+62+69+81+58=345
345 ÷ 5=69
つまり、5人の平均値は「69点」になります。
分散・標準偏差とは?
まず、「標準偏差」の「偏差」ですが、これは各データの平均値との差を示す言葉です。
そして、「偏差」をそれぞれ2乗して足し合わせたあと、データの個数で割った値を「分散」といい、さらに、「分散」の平方根をとった値を「標準偏差」といいます。
標準偏差は、そのデータ群の標準的な「平均値との差」を意味します。つまり、そのデータ群がどれくらいばらついて分布しているかがわかります。
後ほど説明していますが、こうして求められる「標準偏差」が偏差値を算出するために必要となります。
先ほどの平均値を計算した5人の得点で、分散と標準偏差を計算してみましょう。
生徒 | 得点 | 偏差(平均値69点との差) | 偏差の2乗 |
---|---|---|---|
Aさん | 75 | 6 | 36 |
Bさん | 62 | -7 | 49 |
Cさん | 69 | 0 | 0 |
Dさん | 81 | 12 | 144 |
Eさん | 58 | -11 | 121 |
〈分散〉
36+49+0+144+121=350
350 ÷ 5=70
〈標準偏差〉
√70=8.366…
以上の計算式より、分散は70、標準偏差は8.366…と求められました。
偏差値の計算方法
偏差値は以下の3つの手順で計算されます。
①受験生のテストの点数から平均・標準偏差を計算する
②テストの点数が平均0、標準偏差1になるように変換する
③変換した②のデータに10を掛けて50を足し、データが平均50、標準偏差10になるように変換する
多くの学校のテストでは、平均点がおおよそ50点になるように設計されています。そのため「+50」をしてデータを補正しています。
そして、ほとんどの人が25点から75点に分布するように作られていますので、「×10」をして補正します。
以上の3つの手順を式で表すと以下の通りです。
偏差値=+50
先ほどから登場しているAさんの偏差値を求めると、以下のようになります。
Aさんの偏差値=+50=57.171…
5名全員の偏差値は以下の表を参照してください。
生徒 | 得点 | 偏差値 |
---|---|---|
Aさん | 75 | 57 |
Bさん | 62 | 42 |
Cさん | 69 | 50 |
Dさん | 81 | 84 |
Eさん | 58 | 37 |
※偏差値は小数点第一位で四捨五入
参考:「偏差値」を理解する ◆データサイエンティストが解説!◆
偏差値の上限と下限は?
一般的なテストなどでは、偏差値はおおよそ25から75くらいの間に収まります。しかし、理論上の偏差値には上限や下限はありません。極端なデータ分布の場合は偏差値が100を超えることもあり得ます。
例えば、テストを受けた100人のうち1人のみ100点、他の99人が0点だった場合の偏差値は、100点の人は149.5、0点の人は49になります。実際のテストでここまで極端な結果は考えられないので、偏差値70を超えるとかなりの好成績と考えてよいでしょう。
大学受験における偏差値

次は、大学受験の難易度を示す偏差値を見る際に気を付けるべきことを解説していきます。
同じ大学でも学部によって偏差値は異なる
大学受験の特徴として、同じ大学でも学部によって偏差値が異なる場合があることが挙げられます。例えば、人気のある学部はより多くの受験生の中から合格者が決まるため、競争率が高く学部の偏差値も高くなりやすいです。
早稲田大学を例に見てみましょう。一部の学部を抜粋しました。
学部名 | 偏差値 |
---|---|
文学部 | 67.5~70.0 |
教育学部 | 62.5~67.5 |
法学部 | 67.5 |
政治経済学部 | 67.5~70.0 |
基幹理工学部 | 65.0 |
創造理工学部 | 62.5~65.0 |
※一般選抜における偏差値です。
※予想される合否の可能性が50%に分かれるラインの偏差値です。表に示した偏差値があれば「確実に合格できる」わけではありません。
表で示したように、予備校の河合塾が発表している早稲田大学の偏差値は62.5から70.0とされています。
大学の偏差値は大学や学部ごとに固定されているものではなく、前年度の予備校各社が実施する模試等の結果における受験生の偏差値と、受験の合否を予備校各社が集計して算出しているものであることに注意が必要です。
学部ごとの教育のレベルがわかる数値ではありませんし、確実に合格する偏差値の基準もありません。人気が高く、競争率が高い学部は偏差値が高めに出ることもあります。
このように、学部によって偏差値が大きく異なる大学もありますので、志望校の偏差値を調べるときは学部ごとに確認することが必要です。
同じ学部でも入試方式ごとに偏差値が異なる
国公立大学では前期と後期、私立大学では一般入試と共通テスト併用方式など、同じ大学の同じ学部でも入試方式は複数あります。
各入試方式ごとに受験者層が変わるため、偏差値が各入試方式ごとに異なります。
必ず自分が受ける入試方式の偏差値を確認しましょう。
例えば、予備校の東進のホームページでは、入試方式ごとの偏差値を見ることができます。参考にしてください。
参考:2024年度入試対応最新版 東進の大学入試偏差値ランキング.
受験科目に大学や学部の偏差値は影響を受ける
国公立大学も私立大学も試験の難易度が偏差値によって表されています。しかし、国公立大学は受験に必要な科目数が多く、全教科で高い得点をとることは難しいため偏差値が低く出やすいです。
例えば、予備校の東進が発表している偏差値ランキングでは「国公立大と私立大で偏差値算出の基準が異なるため、たとえ数値が同一であっても国公立大・私立大間で偏差値を比較することはできません」としています。
国公立大学と私立大学の偏差値を比較する場合は、国公立大学の偏差値に+5をすると良いと一般的にいわれていますが、そもそも比較することができない数字なので目安にすぎません。
参考:2024年度入試対応最新版 東進の大学入試偏差値ランキング.
予備校によって算出される偏差値が異なる
大学の偏差値は予備校各社が算出しているため、予備校ごとに発表している偏差値が異なる場合があります。自分の偏差値と比較したい場合は、自分の偏差値を算出した予備校(模試などの主催の予備校)が発表している大学の偏差値を参照するようにしましょう。
偏差値に囚われすぎない

ここまで偏差値について解説してきましたが、偏差値に囚われすぎないことも重要です。なぜなら、偏差値は単に成績の目安となる指標にすぎないからです。
偏差値は個々の持っている“能力”ではなく、その時点の学力を測る指標であり、努力して勉強すれば偏差値は伸びていきますが、油断すれば落ちてしまいます。例えば、偏差値が算出される模試などを受けた時のコンディションにも左右されるでしょう。
他にも、問題が比較的易しければ高い得点率の中で競うこともありますし、難易度が高ければ受験生の得点のばらつきが大きくなることもあります。
易しい問題は解けても難しい問題に対応しきれなかった場合など、易しい傾向の試験で高い偏差値が出たとしても、試験の難易度が上がったときに同じ偏差値になるとは限りません。その時に出題された分野との相性もあるでしょう。
また、1年以上早く受験勉強を始めているRe受験生は、4月など年度の前半の模試では高い偏差値が出やすいです。12月など後半になると現役生の成績が伸びるため、序盤の差が縮まってゆく傾向があります。1年かけて勉強していると、偏差値も大きく変動しますので一喜一憂しすぎないことが大事です。
偏差値を上手に使うには?

偏差値を上手に利用するために重要なのは、その偏差値になった理由を考えることです。偏差値を手がかりにすることで、自分の得意・不得意を知ることができます。
- 今回の数学は苦手な三角関数の分野が出題されたから偏差値が下がったんだな
- 他教科に比べて日本史は偏差値が高いから得点源にできるかもしれない
- 私大対策模試はいつも偏差値が低いから私大の過去問を今月は重点的にやろう
偏差値は、このような分析のための指標のひとつだと捉えてください。試験ごとに偏差値で一喜一憂するだけでは勉強に活かすことができません。
また、偏差値は模試の受験者層に影響を受けます。志望校に特化した模試を受けることで、おおむね本番でも同じ大学を受験する人たちのなかでの偏差値を確認することができますので、志望校に特化した模試を受けることをおすすめします。
模試については詳細な解説を省きますが、気になる方は以下のコラムを参照してください。
参考:大学受験の模試は何を受けるべき?おすすめの模試を志望校別に徹底解説
模試の結果の偏差値を分析するコツは、以下の2つです。
教科ごとに細かく偏差値を確認する
総合評価の偏差値のみではテストの結果を充分に把握することはできません。必ず教科ごとの偏差値を確認して、教科間の成績のバラツキを把握しましょう。
多少の得意・不得意があるのは仕方がないことですが、極端に苦手な教科がある場合は勉強時間を増やしたり、勉強の仕方を工夫したり何かしらの対策をとるようにすると良いです。
偏差値の推移を確認する
模試などを定期的に受けて、教科ごとの偏差値の推移を見るようにしましょう。偏差値が徐々に上がっていくのが理想ですが、出題される分野などによっても成績は左右されますので、1回の偏差値だけでは正確な学力を測れません。
複数回の模試などの結果から、自分が最低でもどれくらいの偏差値をとることができるか、良いときはどれくらいまで伸びるかを把握することは、志望校を決めるひとつの基準になります。
まとめ
今回は偏差値について仕組みから使い方まで解説してきました。
偏差値は成績を相対的に評価するために使われている指標のひとつです。相対的に評価することで、他の受験生や志望校レベルとその時点での自分の成績を比べやすくなります。また、自分の得意・不得意も知ることができます。
大学受験では、同じ大学でも学部ごとに試験の難易度、つまり偏差値が異なる場合があるので注意が必要です。さらに、入試方式でも偏差値が異なることがあります。自分の受ける学部について丁寧に調べて確認しましょう。
しかし、偏差値は目安にすぎないので一喜一憂しないことが大事です。教科ごとに偏差値の推移を見て、自分の試験対策に役立てるという意識で使っていきましょう。
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