「リカレント教育」
この言葉を最近よく耳にするという人も多いのではないでしょうか。
また、似たような言葉で「生涯教育」、「リスキング」といったものもあります。
この記事では、リカレント教育や生涯教育、リスキングの解説から実際にリカレント教育を受ける方法や、メリット・デメリットなどについても解説していきます。
リカレント教育とは

リカレント教育とは、社会人が自分のキャリアアップを目的として、学び直すことです。学校を卒業し社会人になったあとに、改めて大学や専門学校などで勉強をする「学び直し」は近年注目を集めています。
「リカレント」とは英語の”Recurrent”から来ており、「回帰」を意味します。
リカレント教育は日本ではまだ浸透していませんが、海外では、雇用が流動化し転職が盛んな国や、人口が少なく労働力が小さい国を中心に、人材価値を高めるために積極的に取り入れられています。現在、人生100年時代に突入していることや、テクノロジーの発展によって人間の仕事が奪われていることを考えると、リカレント教育を受けることの必要性は高まってきているといえるでしょう。
生涯学習とリカレント教育
まず、リカレント教育と似た言葉である、「生涯学習」について軽く触れておきます。
生涯学習とは学校教育やスポーツ活動、ボランティア活動や趣味など生涯で行うあらゆる学習のことを指します。生涯学習の目的は、学習することによって豊かな人生を送ることです。
リカレント教育も生涯学んでいくことといえますが、その目的に「仕事やキャリアに活かすこと」が含まれている点が生涯学習との違いです。「生涯働き続けられること」に重点を置いています。
生涯学習とは、必ずしも仕事に直結した学びというわけではありません。趣味としてスポーツや語学を学ぶことも生涯学習といえます。
リスキリングとリカレント教育
もう一つ、リカレント教育に似た概念の、「リスキリング」という言葉について触れておきます。
リスキリングもリカレント教育も、「仕事やキャリアに関する学習」という点では同じですが、リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けることであり、「職を離れる」ことを前提にしています。反対にリスキリングは新しい職業や今の職業に必要とされるスキルを「働きながら」獲得することを意味しています。
また、これも一般的な話ですが、リスキリングは会社主導で行い、リカレント教育は個人が主体的に取り組むという点でも違いはあります。
リスキリングは、2020年のダボス会議で取り上げられたのを皮切りに、日本でも注目を集め始めました。また、デジタル技術を生活のいろいろなところに取り込んでいくDX化が加速しており、仕事の場でもそれに対応していく必要が生じたため、リスキリングへの注目度は増しています。
現在、生涯学習やリスキリングと合わせて、リカレント教育という学び直しの流れが来ています。
リカレント教育の必要性

文部科学省によると、大学や高等専門学校などの高等教育機関で学び直しを行っている人数は、11.1万人だそうです。(平成27年3月時点集計)
またマイナビの20代から50代の会社員800人を対象にした、「社会人の学び直しに関する実態・意識調査(2020)」では、学び直しに興味がある人が82.1%とかなりの割合を占めています。加えて現在学び直しをしている人は16.9%、過去にしたことがある人が36.6%と、学び直し経験者は過半数に達しています。
多くの人がリカレント教育に興味を示しているのは、人生100年時代の到来や、テクノロジーの発展により、新たに知識を学んだり、新しいスキルを身につける必要性が高まったからです。
参考:『マイナビ転職』、「社会人の学び直しに関する実態・意識調査」を発表
人生100年時代
「人生100年時代」という言葉をどこかで聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
日本の有名なビジネスパーソンである大前研一氏著の『大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」』(2019)によると、2007年生まれの日本人の半数が、107歳より長生きすると予想されています。
65歳で定年になったとしても、余生は40年以上あるわけです。退職金や年金をもらえたとしても、40年間お金に困らず生きていけるとは限りません。
今の時代でさえ、生きていくには70歳や75歳まで働き続けなければ、老後のやりくりは厳しくなっています。そして、長く働くためには会社や社会に必要とされるスキルを身に着けておく必要があります。
この人生100年時代では、リカレント教育により、社会人になってからでも仕事やキャリアに関する知識を学び直すことが非常に重要だと言えます。
参考:リカレント教育とは?生涯学習やリスキリングとの違い・背景・メリットなど、わかりやすく解説!
テクノロジーの発展
日々テクノロジーは進化しており、私たちの生活はますます便利になっています。一方、人間の仕事が徐々に奪われている点には、注意するべきでしょう。
2015年12月には、野村総研とオックスフォード大学の共同研究でAIの導入によって日本の労働人口の49%の仕事が10〜20年以内になくなるというレポートが発表されました。
今後、デジタル化がさらに進むとさまざまな業界で変化が生まれ、よい側面もありますが、大きな会社でも倒産したり、大量の失業者が出てきたりするような事態が起こることも予想されます。
これまでにも、インターネット動画配信サービスが登場したことにより、レンタルビデオ会社が次々と閉店に追い込まれるなどの事例がありました。このような事例は挙げればきりがありません。
新しい技術は私たちの生活を便利でより豊かなものにしてくれますが、技術革新によって人間は働く場所をどんどん失っていく可能性もあります。テクノロジーの発展により仕事を失わないようにするためには、リカレント教育によって時代の変化に対応し続ける必要があるでしょう。
参考:「AIで49%の仕事がなくなる」から7年。いま時代に必要な人間のスキルとは。
どのような人が対象?

リカレント教育の対象となるのは、一般的には社会人として働いている人や、定年退職した人、離職中の人です。
学校教育を終え社会人キャリアをスタートしている人でも、仕事やキャリアに役立つ知識をさらに学びたいと考えているならば、リカレント教育を考えてみてはいかがでしょうか。
それでは、それぞれの対象者について、リカレント教育がどのように役立つのか見ていきましょう。
社会人として働いている人
リカレント教育の対象の代表格が、現在社会人として働いている人です。働いているなかで、自分に足りないスキルは何か、将来やりたいことを実現するために必要なものは何かを考えるきっかけがあり、リカレント教育の必要性に気づく人が多くいます。
定年退職した人や離職中の人に比べて学び直しに割く時間が少ないことが難点ですが、仕事終わりや休日を上手く使い、効率よく学ぶように心がけましょう。
この後にご紹介しますが、働いていてもリカレント教育を受けられるような取り組みを実施している大学もあります。学び直しの環境はますます整ってきているので、時間のやりくりさえできれば自分の思い描く未来に近づけます。
定年退職した人
定年退職した人であっても、リカレント教育が必要かもしれません。退職後、老後に十分な資金が残っていない場合は再就職するなどしてお金を稼ぐ必要があるからです。
また、60代での再就職を目指そうと思うと、年齢がネックとなり、働ける場所が大幅に限られてしまいます。自分にとって好都合になるように条件を絞れば絞るほど、応募できる求人は減っていき、臨まない仕事に就かざるを得ないかもしれません。
しかし、十分にスキルがあれば、履歴書や面接でアピールできます。年齢がネックになったとしても、類まれな専門知識があれば、うちに来てほしいと手を挙げる会社が増えます。再就職をスムーズにするためにも、定年退職した人はリカレント教育を受けると可能性が広がるでしょう。
離職中の人
離職中の人も、仕事を休んでいるうちに学び直しをしておけば、キャリアの足止めの影響を最小限にとどめられるでしょう。
時間があれば、本格的に学校に通って専門知識を身に着けることもできます。
これまでの仕事に関連性のあることを学び直し、スキルアップすることももちろんできます。一方、自分の興味や関心に合わせて、これまでの仕事内容とは関係ないことを学び、より待遇がよかったり、より自分にあったりする職種に転職する準備を行うことも可能です。
離職中は、将来のことを考え、必要なことを学び直すのに最適です。
学び直しにおすすめの大学

現在、「学校教育期間を終えた社会人」をリカレント教育の対象者として、国を挙げてリカレント教育政策が進められています。
社会人が大学などの高等教育機関で再度学び、スキルを身に着けることができるよう、大学での学び直しの環境も整いつつあります。
社会人でも学習できるよう、夜間コースや通信教育などの制度や環境が充実しており、ビジネスに関する知識を深めることができます。
その分野その分野の専門家による指導を受けられるため、専門性の高い内容を効率よく学習でき、自分のキャリアアップができるよいチャンスでしょう。
それでは、具体的な大学の例を挙げながら、そこの提供するリカレント教育について、簡単に見ていきましょう。
小樽商科大学
小樽商科大学では、社会人向けの学び直しのコースに以下の3つがあります。
- 夜間主コース
- アントレプレナーシップ専攻(MBA)
- リカレント教育プログラム
アントレプレナーシップ専攻は特に人気が高く、修了時にMBA(経営管理修士)が取得できます。経営にまつわる知識を身に着けられ、中小企業診断士などにとして活躍することもできるかもしれません。
参考:社会人の学び直し | 国立大学法人 北海道国立大学機構 小樽商科大学
早稲田大学
早稲田大学では、社会人教育をなんと1886年に始めました。
社会人を対象とし、社会人に配慮がされた入試形式である社会人入試は、大学、大学院共に積極的に行っています。また通常の昼間課程に加えて働きながら学べる夜間過程や、通学の必要がないeスクール(通信課程)などが存在し、社会人の学び直しに適した大学といえるでしょう。
夜間の過程とeスクールは以下の学部学科で実施されています。
- 法学研究科
- 創造理工学研究科
- 社会科学研究科
- 経営管理研究科
- 人間科学研究科
- スポーツ科学研究科
- 人間科学部
上記の研究科では夜間開講があり、人間科学部は通信過程で受講することができます。
また教員免許状や博物館学芸員資格取得に必要な単位を取得せずに大学を卒業した場合に、不足単位を取得し、それらを目指す科目等履修生も存在します。
その他にも同じ志を持つ受講生同士の出会いがあるWASEDA NEO、起業家を実践的に育成するプログラムWASEDA-EDGEなどリカレント教育についてさまざまな取り組みをしているので、気になる方は調べてみてください。
参考:【もっと知りたい!】バラエティ豊かな早稲田大学のリカレント教育を深堀り!
中部大学
中部大学では、社会人の大学院への入学推進に力を入れています。
また、以下のリカレント教育を実施しています。
- エクステンションカレッジ
- アクティブアゲインカレッジ(CAAC)
エクステンションカレッジは、聴講生としてオンラインで受講できる授業で、多種多様な科目が展開されています。
アクティブアゲインカレッジ(CAAC)は社会人のみを対象としたコースで、2年課程の健康・福祉コースと国際・地域・文化コースがあります。
また、公開講座やイベントなども開催し、学びの機会を多く提供しています。
参考:中部大学のリカレント教育
関西大学
関西大学では、梅田キャンパスで「海外子会社の経営を担う人材を養成する大学院教育プログラム」、「地域政策コーディネーターを養成する大学院教育プログラム」といった履修証明プログラムなどを展開しています。
また、「夜間集中」ビジネス講座では、以下についてのスキルが習得できるような講義が展開されています。
- 会計
- 法務
- 労務
- 税務
- リスク管理
オンラインでの講義動画視聴が可能なので、社会人でも働きながらリカレント教育を受けることができます。
徳島大学
徳島大学はリカレント教育に力を入れており、「トクリカ」という徳島大学におけるリカレント教育に関するイベント・講座情報を発信するポータルサイトが存在します。ここで取り扱う講座は多々あり、以下のような内容についてのものです。
- 健康や福祉
- AI / ICT
- SDGs
臨床心理士や建築士などの資格取得が可能なため、こうした職種への転職を考えている人におすすめです。
大学以外の学び直しの手段

大学以外でも、学び直しの手段はあります。
厚生労働省は労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」が重要であると考えており、学び・学び直しにおける「労使の協働」が必要だと述べています。「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」では、国がリカレント教育に対して行っている補助金や支援制度が記載されています。
労働者の主体的な学びへの支援として、以下のような制度があるので利用を検討してみてください。
教育訓練給付金
高等職業訓練促進給付金
学び・学び直し促進のための特定支出控除における特例措置
また、個人でも気軽に始められる学び直しの方法もあります。以下でご紹介します。
書籍で資格の勉強をする
リカレント教育は、書籍でも多少なりとも受けられます。自分が学びたい内容の書籍を購入すれば、通勤時間などの隙間時間を利用して学習することも可能ですし、自分のペースで進めることができます。
仕事やキャリアに役立つスキルであれば、アピールしやすいよう資格を取得するのもおすすめです。部署を異動したいときや、転職、再就職をする際に、資格があれば自分がどのようなスキルを持っているか相手に伝えやすくなります。
コミュニティに参加する
ビジネススキルをアップさせるには、コミュニティに参加して仲間と知識を深めあう方法もあります。
インターネット上で展開されている月額会員制のコミュニティ、オンラインサロンを活用すれば、専門的な内容も場所の制約なく習得可能です。
ひとりでは挫折してしまいそうだと心配なら、同じ目的を持っていたり、同じく成長しようとしたりしている仲間を探してみましょう。お互いに励まし合えますし、自分では思いつかないような考え方や学習方法を教えてもらえるかもしれません。
動画やアプリで学ぶ
YouTubeなどの動画コンテンツやビジネス関連のアプリなどを使い、安く学び直しを行うこともできます。
情報が正しいかどうかの判断には慎重になる必要はありますが、誤っている情報ばかりではなく、有益な内容も多くあります。よい動画コンテンツや優良なアプリ、ウェブサービスを見つけることができれば、高いスキルを効率よく身につけることができるかもしれません。
リカレント教育のメリット

社会人になってからの学び直しにより得られるメリットは複数あり、現職の仕事内容に役立つこともあれば、転職に役立つこともあります。
生涯現役で働くためにも、また、テクノロジーの発展により仕事を奪われないようにするためにもリカレント教育の重要性はますます高まっていくでしょう。今のうちに学び直しておくことで、将来の不安を減らすことができ、人生の可能性も広げることができます。
今の仕事に活用できる
リカレント教育を受けることで身に着けたスキルは、今の仕事にも活用できます。
社内研修の機会が設けられていても、つい忘れてしまったり、より深い内容まで追究できなかったりする場合があります。現場で役立つ知識を習得するには個人で勉強することもときには必要で、リカレント教育によって補えるところもあります。
自分が働いている業界や職種にまつわる知識を吸収し、実際に活かすことができれば充実感や達成感を味わえるでしょう。仕事が効率的・生産的にできたり、業績を残すことができれば昇進や昇給の期待もできます。
今後のキャリアを考えるうえでも、今の仕事で役立つスキルを身に着けることは重要です。
転職に有利
リカレント教育を受けることで、転職がしやすくなることもあります。
同じ業界や職種に就きたいなら、今の仕事経験を活かしつつ、リカレント教育を活用してさらなるレベルアップを目指しましょう。
違う業界や職種への転職を考えているなら、未経験でも採用されるようなスキルを習得しましょう。
転職するにはまず履歴書の送付が基本的に必要です。リカレント教育で取得したスキルや資格を記載できれば、面接に至る前にふるい落とされる確率を下げられます。
リカレント教育のデメリット

仕事やキャリアアップに役立つリカレント教育ですが、学び直す上でデメリットもあります。
大学に通ったり、通信講座を受けるなら費用がかかりますし、働いているなら仕事と学びを両立させなければなりません。
以下で、リカレント教育にかかる費用や、仕事とリカレント教育を両立させる方法を見ていきましょう。
学費など費用がかかる
学び直しを始めるためには学費などの費用がかかります。書籍や動画コンテンツの利用など、安く学べるものもありますが、本格的に学ぼうと思うとそれなりの金額になります。
人材採用・入社後活躍のエン・ジャパン株式会社が運営するミドル世代のための転職サイト『ミドルの転職』は、サイト利用者のうち、35歳以上のユーザーを対象にリカレント教育についてのアンケートを行いました。1,341名からの回答のうち、学び直しにかけている費用について最も多かったのは月間1〜5万円未満でした。
リカレント教育を受けた機関のうち、最も多かったのは民間サービスです。年収1,000万円以上の人と年収1,000万円未満の人で支払う金額の割合が異なりますが、どちらも最も多いのは1〜5万円未満です。
かける費用は調節できますが、専門的知識を身に着けるには少なからず費用が必要です。

仕事との両立が難しい
リカレント教育を受けるのは、働いている場合は仕事との両立が難しいことがあります。学習のための時間が必要ですが、フルタイムで働いている場合は時間の捻出が課題となります。
仕事にも専念しながらリカレント教育を受けるならば、自分のライフスタイルに合わせて隙間時間を作り、学び直しの時間を確保するよう努めましょう。電車通勤なら通勤時間にスマホや書籍で学習できますし、平日が忙しいなら休日を有効活用することもできます。
まとめ
リカレント教育やリスキリングといった学び直しは近年注目されており、実際に大学や企業が取り組んでいるケースも増えてきました。
社会人になってからの学び直しであるリカレント教育は、人生100年時代の到来やテクノロジーの発展などにより社会が大きく変わることに合わせて、今後重要性を増していくでしょう。社会の変化に対応しながら活躍し続けるには、その変化に合わせて必要な能力やスキルを磨く必要があるからです。
また海外と同様に日本でもジョブ型雇用導入の流れが進んでいます。ジョブ型雇用では、職務を実行するために必要なスキルや資格を持つ人を重視するため、今よりも知識やスキルが重要となります。
学ぶことで人生の幅も広がるので、あれこれ考えずに、とにかく何か新しいことを少しずつ学び始めるのもよいでしょう。
学び直しの機会が増えてきた環境を活かして、自分の人生の可能性をどんどん広げていきましょう。